「別れた恋人のSNSを、また見てしまった」
深夜2時。ベッドの中でスマホを握りしめ、自分を振った相手のインスタグラムを更新し続ける。新しい投稿がないか、誰か別の異性と楽しそうにしていないか。指が止まらない。
友人は「時間が解決してくれるよ」「もっといい人がいる」と無責任に励ましてくれるが、あなたの胸の痛みは1ミリも減らない。むしろ、時間が経つほどに相手への渇望が増していくことさえある。
なぜ、私たちは自分を拒絶した相手にこれほど執着してしまうのか?
実は、このどうしようもない衝動の正体は、あなたの「未練」や「弱さ」ではない。
最新の脳科学が突き止めた結論はもっと残酷で、かつ機械的だ。あなたの脳は今、「コカイン中毒者が薬を欲しがるのと全く同じ状態」にあるのだ。
【3行でわかる研究の要点】
- - 失恋直後の脳活動は、コカイン中毒者の「渇望」と完全に一致していた。
- - 振られた直後、逆に恋愛感情(ドーパミン)が爆増する「フラストレーション・アトラクション」現象が確認された。
- - 物理的なケガと同じ脳部位が反応しており、「心が痛い」は比喩ではなく事実だった。
失恋した15人をMRIに閉じ込める拷問実験
この「愛の謎」に挑んだのは、ラトガース大学の著名な生物人類学者ヘレン・フィッシャー博士らの研究チームだ。
彼女たちは、ある意味で科学史上もっとも残酷とも言える実験を敢行した。
集められたのは、平均年齢約20歳の男女15名。彼らの共通点はただ一つ。「最近、激しく愛していたパートナーに振られたばかり」であること。
参加者は平均して約2年間の交際の後、実験の約2ヶ月前に別れを告げられていた。全員がまだ元恋人に未練たらたらで、起きている時間の85%以上を「元恋人のことを考えること」に費やしているという、まさに失恋のプロフェッショナルたちだ。
研究チームは彼らをfMRI(機能的磁気共鳴画像法)という巨大な装置の中に放り込み、脳の血流をスキャンしながら、次のようなタスクを課した。
「愛しい元恋人の写真を30秒間、見つめ続けてください」
まだ傷の癒えない彼らにとって、これは拷問に近い。しかし、科学者のこだわりはここからだ。感情の波を正確に測るため、元恋人の写真を見せた直後に、こう指示した。
「では次に、4桁の数字から7を延々と引き算し続けてください」
これは「気晴らし課題」と呼ばれ、高ぶった感情を強制的にリセットするための処置だ。「元恋人の写真」→「引き算」→「どうでもいい知人の写真」というサイクルを何度も繰り返すことで、脳が「元恋人」に反応した瞬間だけの純粋なデータを抽出したのである。
脳は「失恋」を「薬切れ」と誤認していた
スキャン画像を解析した結果、研究者たちも息を呑むような事実が判明した。
元恋人の写真を見た瞬間、参加者の脳内では「腹側被蓋野(VTA)」と呼ばれる部位が、クリスマスツリーのように激しく発火していたのだ。
ここは「報酬系」の中枢であり、私たちが美味しい食事をした時や、ギャンブルで勝った時に快楽物質ドーパミンを放出する場所だ。しかし、最も重要なのは、ここが「コカイン中毒者が薬物を欲している時に活性化する場所」と完全に一致していたことである。
要するに、脳にとって「元恋人」とは、単なる思い出の人物ではなく、「最高級の麻薬」として登録されていたのだ。
さらに驚くべきは、振られた後の方が、付き合っていた頃よりもこの部位の活動が活発になるケースさえあったことだ。
フィッシャー博士はこれを「フラストレーション・アトラクション(欲求不満による誘引)」と名付けた。
たとえるなら、お金を入れたのにジュースが出てこない自動販売機のようなものだ。私たちはボタンを押してジュースが出ないと、諦めるどころか、より激しくボタンを連打してしまう。脳は「報酬(元恋人からの愛)」が予期せず遮断されると、その報酬をなんとかして手に入れようと、ドーパミンを過剰に放出し、執着心を暴走させるようにできているのだ。
また、脳の「島皮質」や「体性感覚野」といった、物理的な痛みを処理する部位も同時に活性化していた。
「胸が張り裂けそうで痛い」という表現は、詩的な比喩ではない。脳にとっては、熱いストーブに触れた時の「痛み」と、失恋の「痛み」は、電気信号として全く区別がついていなかったのである。
「冷却期間」こそが唯一の科学的治療法
では、この「脳のバグ」から抜け出すにはどうすればいいのか?
研究結果が示す対策は、非常にシンプルかつストイックだ。
「元恋人との接触を、物理的・デジタル的に完全に遮断せよ」
アルコール依存症の治療中に、「一杯だけなら飲んでもいい」という医者はいない。同様に、脳が元恋人を「ドラッグ」として認識している以上、SNSを覗いたり、「元気?」とLINEを送ったりすることは、リハビリ中の患者に少量のコカインを与えるのと同じ行為になってしまう。
写真を見るだけでも、脳の報酬系は刺激され、ドーパミンの渇望サイクル(禁断症状)がリセットされてしまうのだ。
「友達として繋がっておく」というのは、科学的に見れば「拷問を長引かせる」のと同義である。
その代わり、別の報酬系を刺激することは有効だ。新しい趣味に没頭したり、激しい運動をしたりすることで、元恋人以外からドーパミンを得るルートを脳に再学習させる必要がある。
もしあなたが今、スマホを握りしめて元恋人に連絡しようとしているなら、思い出してほしい。それはあなたの「愛」が深いからではない。単に脳が「ヤクが切れたぞ!」と暴れているだけなのだ。
暴れる脳をなだめるには、無視を決め込むのが一番の特効薬なのである。
もし友人が失恋して泣きじゃくっていたら、慰めの言葉をかける代わりに、チョコを渡してスマホを取り上げよう。彼らの脳に必要なのは、哲学的なアドバイスではなく、代替ドーパミンとデジタル・デトックスなのだから。
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